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rapanse’s diary

ポストモダンの視点で絵画を楽しみ、沖縄のシマ社会と芸能を楽しむ

ゴヤの描いた二つのカーニバル

スペイン独立戦争(1808-1814年)は、フランス正規軍と民衆のゲリラ活動との戦いだった。ゲリラとは、スペイン語で「戦争」を意味するゲラに縮小語尾をつけた言い方で、このスペイン独立戦争の中で生まれた言葉だった。

フランス兵はゲリラを正規兵とは扱わなかったので、捕らえると賊徒として処刑した。ゴヤの版画集《戦争の惨禍》(1810-15)は、フランス軍による残虐な行為を、あますところなく冷徹に描いている。

そしてフランス軍が撤退し、独立を達成したスペインでは、憲法に基づく立憲主義が否定され、反動的な絶対王政が復活することになる。

スペイン独立戦争から戦後の反動の時期にかけて、ゴヤは人間の愚かさを描くようになっていく。

次の絵は、スペインのカーニバル(謝肉祭)の最後を飾る「鰯の埋葬」が画題となっている。

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ゴヤ作《鰯の埋葬》(1812-19年頃)王立サン・フェルナンド美術アカデミー(マドリッド

この絵を印象づけるのは、民衆を見下ろす笑い顔の描かれた大旗の存在だ。カーニバルの最終日に民衆の興奮は頂点に達するが、そこには明るさはない。青空のもとに翻る大旗が、民衆の湧きあがるエネルギーを、愚かなものとして笑い飛ばすのだ。

スペイン独立後に、ゴヤは版画集《ロス・ディスパラテス(妄)》(1815-17)を制作する。この版画集はゴヤの死後に発行されたもので、ゴヤは始めから公開を予定していなかったらしい。版画集の中に、《カーニバルの妄》がある。

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ゴヤ作《カーニバルの妄》(1815-17)

この絵には、カーニバルの晴れやかさはない。人間の愚かさだけが描かれている。真ん中でいがみ合う仮装した二人を、観衆は笑いながら遠巻きにして眺めているだけだ。観衆の後ろでは、この場から立ち去ろうとする者の姿も見える。

カーニバルは冬の悪霊追放、春の豊作・幸運祈願に由来し、仮装行列を伴いしばしば狂騒的となる祭りだが、この絵には春を迎える喜びはない。狂騒的になる民衆の姿が描かれているだけだ。《鰯の埋葬》にはまだ民衆の華やかな世界があるのだが、《カーニバルの妄》にはそのような華やかさはなく、狂騒が寂寥につながるものとなっている。

ゴヤの孤立感・孤独感は、急速に深まっていくのだ。